組織におけるサイロ化と文化人類学的視点──構造ではなく、文化として捉える

ついに「サイロ」まで来たか…!

組織開発や経営の中で、「サイロ」という言葉は何度も耳にしてきました。

でも最近、「サイロって単なる組織構造の話じゃないよな…」という気づきがありました。むしろそれは文化であり、人間の認知や心理と深く関わる問題なのです。

そこで今回のブログでは、「2016/2/24 サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠  (著)ジリアン・テット」から見えてきた「サイロ化の本質」について、人類学の視点を交えて考えていきたいと思います。
本著書のジリアン・テットはケンブリッジ大学で文化人類学の博士号を取得し金融ジャーナリストという経歴をもつ。

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サイロはどこにでもある。そして私たちの心にもある。

サイロは物理的な倉庫や組織の中だけに存在するものではありません。

私たちの「心の中」や「社会的集団」の中にもサイロは存在しています。

  • 他の部署と話が通じない…
  • まったく違う価値観で議論がかみ合わない…
  • それぞれの専門チームが敵対している…

これらは「構造的な問題」と片づけられがちですが、実はもっと根深いもの。

人類学者の視点は、サイロを理解するのに役立つ。突き詰めるとサイロは文化的現象であり、われわれが世界をさまざまな区分に分類し、整理するためのシステムの産物である。

本書よりP10

そもそも、なぜ「サイロ」と呼ぶようになったのでしょうか?

20世紀の半ばには、西欧の軍隊が誘導ミサイル用の地下の保管庫を「サイロ」と呼ぶようになった。それを経営コンサルタントが取り入れ、「他から隔絶して活動するシステム、プロセス、部署」を意味する用語として使うようになった

本書よりP27

日本では「タコつぼ化」とも言われますΣ(・ω・ノ)ノ!
それでもサイロは農場や牧場にある穀物を保存するための高い建物と言われると「あ~」ってなりますが、日常生活ではあまり見かけません、、、

サイロが生むもの──専門性と限界

 サイロは必ず生じるものです。会社内において組織を部署ごとにわけるのは業務をするうえでも、専門性・効率性・生産性をあげるうえでも重要なことです。フラットな組織を想像して社長一人の下に部署を設けず一人ひとりの人間を置くとどうなるか。少人数ならまだしも数十人、数百人にもなると社長一人VS大量の人間の構図ではコミュニケーションチャネルが多くなり社長一人では組織の運営管理はできないし、非合理です。そのための部署、プロセス、システムなのです。

しかし、サイロには弊害もある。専門化チームに分けられると互いに敵対し、リソースを浪費することもある。互いに断絶した部署や専門家チームがコミュニケーションできず、高い代償をともなう危険なリスクを見逃すこともある。組織の細分化は情報のボトルネックを生み出し、イノベーションを抑制しかねない。何よりサイロは心理的な視野を狭め、周りが見えなくなるような状況を引き起こし、ひとを愚かな行動に走らせる。

 本書よりP28

本書では「サイロ」が悪いと言ってるのではありません。
サイロによって人々が心理的にも物理的にも分断されるのが問題なのです。
大きな問題が起こる前に、それがなぜ起こったのか文化的背景や歴史を知る必要がありますねΣ(・ω・ノ)ノ!

この難しい課題に取り込む第一歩は、まずサイロの存在を認めること、つづいてその影響についてしっかり考えることだ。そうした分析や議論のフレームとして有効なのが人類学である、というのが本書の主張だ。サイロの分析にはあまり出てこない学問分野だ。サイロに関する文献は二つの視点から書かれるものが多い。一つは「どうすればより良い組織の構造をつくれるか」という経営コンサルタント的視点、もう一つはわれわれの心理に着目する心理学者の視点である。

本書よりP34

最近の人事は、サーベイやエンゲージメント、ビッグデータ、タレントマネジメントといった数値や管理に基づくものが流行っています。人文科学や人類学のような学問の捉え方で組織の文化やズレを見る、重要です。( ゚Д゚)

一方、こうした分類システムについてとことん考え抜くのが人類学者だ。それは分類のプロセスが人間文化の根本を成すものであることを知っているからだ。ある意味では分類法そのものが文化なのだ。

本書よりP34,35

組織における文化を観察する。組織文化が組織内における求心力となります。求心力の根底にあるものの理解や分類が組織開発においても重要なキーファクターとなり得ますね(;゚Д゚)

認知科学コーチングでもあるマインドセットの李英俊さんも組織を部門化すればサイロ化が生じるとYouTubeで話されています。部門化すれば皆の心は遠心力が働き離れていきます。そのためにも再度、元の場所に集まるためには求心力としての「文化」が必要ですと言われています。まさに納得ですΣ(・ω・ノ)ノ!
【参考】李さんのためになるYouTube
組織とは何か?】組織の基本を学んでチーム力を高める/対立を減らし、協力を引き出す人間関係の考え方

「人類学者にとっての『文化』とは、洗練された嗜好や文明の知的側面ではない。あらゆる種類のあらゆる社会で広く共有されている考え方、信念、慣行である」。こうした意味で、人類学はわれわれが世界を分類する方法、そしてなぜサイロを形成するのかといった問題を解明するのに役立つのである。

本書よりP35

文化人類学的思考において即効性のある組織開発はできません。しかし手法だけで組織の問題を解決できるならばそれでいいと思います。しかし人が集まり文化を構築するなかで、複雑な人の感情、制度、背景を文化人類学的思考は別の観点から組織を見ることでボトルネックを発見することもありますねΣ(・ω・ノ)ノ!

この二つの世界(それだけでなく人類学者が研究対象としてきたすべての人間社会)に共通するのは、公式及び非公式な分類システムや文化的ルールを使って、世界を複数の集団に分ける傾向があることだ。

本書よりP43

人類は物事を単純化するため分類するのだ\(゜ロ\)(/ロ゜)/

それは人類学に大変革をもたらした。世界中の若手人類学者がその社会の一員となって生活することでその社会を観察する「参与観察」やその記録としての「民族誌学」に目を向けはじめた。研究対象の人々を観察し、それから分厚い観察記録を書くプロセスである。

本書よりP55

観察と資料をまとめるとしての「組織エスノグラフィー」と理解していますΣ(・ω・ノ)ノ!

大学に在籍していなくても、また博士号を持っていなくても人類学者として活動することはできる。必要なのは謙虚さと好奇心を忘れず、積極的に質問、批判、探究、議論をする姿勢、そして新鮮な目で世界を見て、自分が当然と思っている分類システムや文科的パターンについて思いをめぐらすことだ。~略~「人類学に必要なのは、自分が想像すらできなかったことを見聞きし、驚きと驚嘆を持って記録するオープンマインドな姿勢である」

本書よりP468、69

小生も文化人類学は書物でしか学んでいません。しかし昨今の経営学や心理学だけでは、組織の成り立ちがよく分かりません。
経営人類学といった学問を知ってから人類学の可能性を組織に使えるのかと日夜研究中です。
最近の日経MJにも文化人類学を使ったマーケテイングの手法が掲載ありました。徐々にではありますが世の中に知れ渡っているのでしょう。
プロセス・コンサルテーションで有名なエドガー・シャイン先生も、社会心理学と人類学といった複数の領域から研究をしています。シャイン先生の「プロセス・コンサルテーション」「組織文化とリーダーシップ」「キャリアアンカー」などは、まさに「観察と対話」から生まれるものだと思います。

ジョブズが恐れたのは「過去への執着」

ソニーやUBS(スイスユニオン銀行)の事例では、まさにこのサイロ構造が変化への対応を妨げ、組織の未来を閉ざしてしまいました。

しかし、ジョブズ率いるアップルは違っていました。

ジョブズの経営スタイルはワンマンで、社内にサイロをつくろとうはしなかった。そんなことをすれば管理職に未来に飛び込むより既存の製品アイデアや過去の成功にしがみつこうとするインセンティブを与えることになると恐れたからだ。またアップルの製品群は少数にとどめるべきだと考えていた。それは新たなアイデアが生まれたら、代わりに時代遅れになった製品は廃止することを意味した

本書よりP89

過去の成功体験を経営層・幹部層は引きずるものです。ジョブズは、サイロ化により上層にいるリーダー層がチャレンジしなくなることに嫌気をさしたのでしょうね。自部門だけの目的・目標を達成すれば問題ないと考えればまさに視野狭窄に陥り部門を超えてのイノベーションなぞ夢のまた夢でしょうね・・・(´;ω;`)ウゥゥ

「アップルには独自の損益責任を持つ「事業部」は存在しない。会社全体で一つの損益があるだけだ」

本書よりP90

部門で区切れば部門損益が発生します。またここで部門だけの利益を追うことにつながります。
最近話していた会社では業績賞与の計算を部門損益で賞与を決定するのは問題があると聞いたのを覚えがあります。会社全体で業績を評価する、最終的に全部門が追い求めるのは顧客の利益なのです。しっかり考えないと個別部門利益ではサイロ化を生む恐れがあります。
あの大手の京セラでも部門間での技術者のやりとりがあまりにないと日経新聞にもありました。アメーバ経営で小単位でそれぞれの経営観をもつのも限界があるかもしれません。

ソニーの場合、サイロの存在はイノベーションの芽を摘み、ビジネスチャンスを見逃す原因となった。しかしUBSではサイロはリスクを見逃す原因となった。

本書よりP117

サイロの影響で大企業はダメージを追っておりますΣ(゚Д゚;≡;゚д゚)

グループシンク(集団浅慮)に陥るのを防ぐため、独立した立場の社外取締役が招かれた。

本書よりP140

UBSでは企業変革のために様々な努力をしていますね。

進んでリスクをとり、自らの狭い専門領域から飛び出そうとする意欲をもった人は、思いもよらない形で心の境界を塗り替えていくことが多い。身体的な意味ではなく心理的な旅に出ることで、われわれはサイロから自由になれる。旅に出ることで、少なくとも違う生き方、考え方、世界の分類の仕方を想像できるようになるからだ。

本書よりP218

サイロ化の原因は、いきすぎた専門性と他部署との対立、葛藤、コミュニケーション不足です。

ここまで来て分かる通り私たちは「誰が顧客なのか?」という言葉を置き去りにしているのです(´;ω;`)ウッ…

サイロに挑む「人類学者的マインド」

サイロ・シンドロームの弊害を緩和するため本書ではがいろいろアイデアがあります。

①大規模な組織においては部門の境界を柔軟で流動的にしておくのが好ましいということだ。

②組織は報酬制度やインセンティブについて熟慮すべきだ。~略~協調重視の報酬制度をある程度取り入れなければならない

③情報の流れも重要であるということだ。~略~組織内で自分たちにしかわからないような複雑な専門用語を多用し、代替案をハナから拒否するような専門家のチームが幅を利かせていると、なかなか実現は難しい。~略~大企業に必要なのはスペシャリストのサイロの間を行き来し、個々のサイロの内側にいる人々に他の場所では何が起きているのか「文化の翻訳家」なのかもしれない。~略~

④組織が世界を整理するのに使っている分類法を定期的に見直すことができれば、願わくは代替的な分類システムを試すことができれば大きな見返りがあるということだ。

⑤サイロを打破するには。ハイテクを活用することのも有効である。

本書よりP317-320

サイロに陥らないための重要なヒントを活かしましょう。

「文化の翻訳家」はこれからの時代に組織において必ず必要となる人材でしょう。組織内において、いろんな情報に詳しい「情報通」がその方かもしれません。

人類学から学んでモノの考え方あるいは世界の見方を以下に紹介する「6つの人類学的方法論」により組織の“心の構造改革”にも応用できる考え方です。

①人類類学者は人々の生活をボトムアップの視点で見ようとする。

②人類学者はオープンマインドで物事を見聞きし、社会集団やシステムのさまざまな構成要素がどのように相互に結びついているかを見ようとする。

③研究対象の全体を見ようとし、その社会でタブーとされている、あるいは退屈だと思われているために人々が語らない部分に光を充てる。社会的沈黙に関心を持つのだ。

④人々が自らの生活について語る事柄に熱心に耳を傾け、それと現実の行動を比較する。人類学は建て前と現実のギャップが大好きだ。

➄人類学者は異なる社会、文化、システムを比較することが多い。最大の理由は比較することで異なる社会集団の基礎となるパターンの違いが浮かび上がるからだ。

⑥人類学は人間の正しい生き方は一つではない。という立場をとる。

本書よりP321、322

本書では、身内でありながらよそ者である「インサイダー兼アウトサイダー」という立場が説明されています。組織で働く人、組織と契約するコンサルタント、他社の人などいろんなパターンがあります。

ただ視点を変えるために、必ずしもドラマチックな転職をする必要はない。接する情報やニュースを変えてみたり、知らない場所に行ってみたり、普段接する機会の少ない人たちと会って彼らの視点から世界を見直してみたりすることで、一時的に違う世界に身を置くことができる。

本書よりP323

インサイダー兼アウトサイダーの視点はこれからの人生においてもとても役に立つ「リベラルアーツ」だ!Σ(・ω・ノ)ノ!

あとがき:私たちは人類学者になれるか?

人類学者でなくても、文化的な境界線に敏感であり続けることはできます。
組織内にある“当然”に疑問を持ち、専門性の殻を一歩だけ飛び出すことで、
それだけで「心のサイロ」を壊し、新しい風を吹かせることができるのです。

サイロ化の壁を越えて、源流から組織を変えましょう。

 

 

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